SAWAYAMA (Deluxe Edition) – リナ・サワヤマ (Rina Sawayama)

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  • リリース日:2020年12月4日
  • 個人評価:★★★★☆

アイデンティティや強さ、優しさを強く感じるエレクトロ・ポップです。

今回は2020年にリリースされたリナ・サワヤマ (Rina Sawayama)のファースト・アルバムの [SAWAYAMA] を紹介します。
2020年のこのファースト・アルバムをリリース後、あれよあれよという間に注目を集めていき、2023年の今ではセカンド・アルバム [Hold the Girl (ホールド・ザ・ガール)] も第二の母国であるイギリスでは初登場3位という日本人アーティストにとって歴代最高位を記録し、正にシャイニング・スター的な存在となってしまいました。時代の寵児というと大袈裟ですが、アーティストとしての姿勢も含めて今の時代を象徴するアイコンと言ってよいと思います。

私が彼女に興味を持ったのは、ファースト・アルバムを音楽情報サイトや雑誌で知り、ロッキン・オンのアルバム・レビューに個性的で東洋的な顔立ちの日本人アーティストである彼女が紹介されていれば流石に注目してしまいます。
日本人なら当然だと思いますが、日本人女性アーティストが本場のイギリスを中心に正にダンス・エレクトロニックというコンテンポラリー・ミュージックの最前線で実力派として人気を確立していき、話題を振り撒きスターダムを駆け上がっていくことに驚きとともに嬉しさを感じました。
特にコンテンポラリー・ミュージックの本場であり先端であるイギリスでのヒットはイギリスの音楽に長年親しんできた私にとっては、MBLの大谷翔平に匹敵する位に誇りに思う出来事でした。

リナ・サワヤマは生まれは日本、4歳以降は両親の離婚後もイギリスに残り生活しており、今もロンドンを拠点に活動するアーティストです。
イギリスでの永住権は持ってますが国籍自体は日本のままのようです。なので、純粋な日本人アーティストです。
ケンブリッジ大卒であり、作詞・作曲・デビュー当初はプロデュースまで自身でこなし、音楽以外にも、ファッション・モデルやこれから女優としても映画出演が決まっているというマルチ・プレーヤーとか才女と簡単に言うには納まらない、これからの活躍が期待される注目株です。

8曲入りのEPである [RINA]からファースト・アルバム・リリース時は海外の音楽メディアから高い評価を受ける知る人ぞ知る注目株でしたが、2021年のエルトン・ジョンとのコラボによる [Chosen Family]のリリースでさらに世界的に注目され、ここ日本でも2022年夏に SUMMER SONIC に出演で凱旋公演し、畳み掛けるようにリリースされた[Hold the Girl (ホールド・ザ・ガール)]と2023年の単独公演でメディアにも頻繁に取り上げられて、人気もかなり上がってきているようです。

さて、本題のファースト・アルバム[SAWAYAMA] のレビュー・感想にいきます。
一連の東洋的で際どくない程のエキセントリックなビジュアルのジャケットは今回も印象的ですが、EP [RINA] では爽やかさと心地よさ、気持ちよさが同居しながらも東洋的な雰囲気をほんのり感じさせる好盤でしたが、今回は前回と同様にR&Bを基調としたエレクトロ路線の曲中心ですが、前作の良さをより良い形でサウンドとして昇華させていき、リナ・サワヤマというアーティストの個性を打ち出したアルバムになっています。

前半の曲に顕著なのが、R&Bにメタルと言っても良いギター・サウンドを被せてきてハードなサウンドを作り上げています。EPにもディストーションの心地よく効いたギターが入っていたりしましたが、ハードさがさらに強調されてこれが結構新鮮で曲や詩によりカオスな香りを漂わせます。

1曲目の [Dynasty] から3曲目の [STFU!] までは正にそのサウンドの代表です。
[Dynasty] では、ちょっと大仰な感じから始まりますが、王家の血筋と彼女自身の家族生活での血縁関係や辛い思い出を対比させて、そのしがらみから抜け出そうととする思いが描かれています。
国際色豊かな生い立ちに日本という島国に生まれ育った人間からするととうらやましさを感じたりしますが、前述の渡英後の家族事情や生活は幸せだけだった訳でもなく、子供の頃から辛い経験もされてきたようです。そんな思いをちょっと大仰とも言えるハード・ロック・サウンドを交えてドラマティックに仕立てた曲になっています。

2曲目の[XS] は物欲に溺れた資本主義社会に生きる人々をディスっているような風刺しているような歌詞が面白いです。
マドンナのマテリアル・ガールなんかを思い出し、あの80年代のきらびやかを代表する曲とは異なり、これもまたディストーション・ギターが挟まれることが良いアクセントとなりまた違った現在社会の物欲と気候温暖化等による危機をも想起させる魅力的な曲となってます。

3曲目の [STFU!] は、このアルバムいちのハード・ロック・サウンドです。
日本人でありながらもさすがネイティヴ、という4レター・ワードを巧みにカッコ良く使った歌詞と、もうメタルとかデジタル・メタルと言っても良いサウンドでありながらしっかりポップでかなりカッコ良い曲です。90年代に流行ったProdigy (プロディジー)とか Ministry (ミニストリー)なんかのインダストリアル・ロック・サウンドも思い出せてくれます。
PVを見ても曲前の演技なども自然でスターのオーラをしっかり漂わせているところが頼もしいですね。

6曲目の[Paradisin’]もハードなサウンドではないですが、ロックっぽいノリが感じられるロック・ファンにも受け入れられるような曲になっています。

ハードなサウンドを伴うナンバーは前半に集中し、以降はスタイリッシュなものからアップテンポのノリが良いダンス・ナンバーを織り交ぜて続きていきますが、バラード、スローチューンも彼女の魅力です。

8曲目の [Bad Friends] なんかもそんな1曲であり、バカをやったりしてふざけあい中の良かった友達とのことを歌っているようですが、既に関係が離れてしまったことへの後悔や反省が滲んでくる歌詞となっていて特に若い女性リスナーに感銘を与える歌になっているのではないでしょうか。

そして、このアルバムのハイライトは12曲目の [Chosen Family] で、リナ・サワヤマのアーティストとしての才能・アイデンティティを明確に表すナンバーです。
ジェンダーの悩みを抱えた方ではないと痛切にこの歌を理解するのは難しいのかしれませんが、家族を超えた家族、血縁や世間のしきたりを通して結びついた家族よりも大切な関係が「選ばれた家族」として結びつくということを謳っているのだろうと思います。
ドラマや映画での家族愛を感じて素晴らしいことだと思うことはあっても、実際は血縁のある家族でもあっさり関係が壊れたり、しがらみを抱える家族は沢山いると思います。
そんな中で、同じような悩みを抱えて生きた上で、遺伝子や苗字と共有する血の繋がりである世間一般の家族の証とは異なる愛・家族の形を築くことの肯定を直接的な言葉はさせて優しい言葉で新たらしいラヴ・ソングの形を聴くようで感動的な曲に仕上がっています。曲から感じる優しさや包み込むような雰囲気がとても印象的です。東京オリンピック閉会式のエンディングで流れた曲としても印象的でしたね。
エルトン・ジョンとコラボしたパフォーマンス・ビデオが素晴らしいので紹介です。

Rina Sawayama, Elton John – Chosen Family (Performance Lyric Video)

彼女とこのアルバムが何より素晴らしいのは作詞・作曲・パフォーマンスを自身が手掛けていることにより、アーティストとしての音楽性や姿勢やメッセージを、外部のライター、プロデューサーを使いつつもプロデューサーに左右されない形で、彼女の想いの本質をブレずに表現できることであり、アーティストとしてのパーソナリティを強く感じさせてくれるところです。
実際にのアルバムに収録されてる曲は彼女のパーソナルな部分が多く反映されていて、その中に家族・友人・生い立ち等から彼女が今まで生きてきた苦しみや葛藤が反映されている曲が多いです。
自身のアイデンティティというと、イギリスと日本、2つの文化をバックグラウンドに持つ
こともあり、東京をテーマとした曲も数多く収録されていて、実の故郷である日本(Tokyo) に対する思いやノスタルジーを日本語の歌詞も交えて歌われているのが印象的です。

そして私は未聴のセカンド・アルバム[Hold the Girl (ホールド・ザ・ガール)]をそろそろ聞く予定です。その前に今回改めてファーストを聞いた後ではより楽しみです。

最後にこのアルバムリリース時のリナ・サワヤマのインタビューやフォトで彼女をアーティストとして、一人の女性として知ることができるサイトを紹介して終わりたいと思います。
どちらも彼女の生い立ちやファースト・アルバムの曲についてを、リリース時のインタビューを交えて掲載されており、フォトも多数あるのでアーティストとしての彼女を知るにはとても良いサイトになっています。

1990年に新潟で生まれ、4歳の時にお父さんの転勤でロンドンに移住したRinaさんは、両親の離婚後もお母さんとロンドンに残り、13歳の時から音楽制作を開始しました。ケンブリッジ大学卒業後から本格的にアーティスト活動を始め、モデルとしても多くの世界的な雑誌に登場。2019年にはTBS系『情熱大陸』で密着されました。

Rina Sawayama「日本人の女性は怒らない」というステレオタイプを覆す

リナ・サワヤマは新潟県で産まれた後、5歳の時にロンドンに移住している。「英語が話せなくてイライラしていたのを覚えてる」と彼女は移住について語っている。「それから、私のママが英語を話せないことにもイライラしてた。彼女が悪いんだって思ってたの。『アァ、なんで彼女は訛ってるんだろう?なんで英語が話せないんだろう?』ってね。それから、私はたくさん彼女を責めたと思う。実際に受け入れてくれなかったのは外の世界だったんだけどね」

リナ・サワヤマ、デビュー・アルバムにまつわるロング・インタヴューを掲載
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