Dawn FM – ザ・ウィークエンド (The Weeknd)

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今回は2022年にリリースされたザ・ウィークエンド(The Weeknd)の5枚目のオリジナル・アルバムの [ドーン・エフエム] (Dawn FM)を紹介します。

相変わらず1年以上遅れてアルバム・インプレッションを書き込んでますが、今日から2022年のフェイヴァリット・アルバムを紹介していきます。

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  • リリース日:2022年1月7日
  • 個人評価:★★★★☆

アーティスト紹介

2020年リリースの前作[アフター・アワーズ(After Hours)]は昨年このサイトでも紹介しましたが、まずは復習がてら改めてザ・ウィークエンドのアーティスト紹介です。

ザ・ウィークエンド はカナダはスカーバロー出身の男性シンガーソングライター、音楽プロデューサーです。
1990年生まれで本名は[エイベル・マッコネン・テスファイ]。エイベルという愛称でも呼ばれます。
出身地のスカーバローはカナダのオンタリオ州トロントの東部にある地区で、サイモン&アートガーファンクルで有名な「スカボロフェア」はイギリスの町のことなので間違いやすいけど違います。

1990年に生まれの彼は、両親はエチオピアからの移民で毎日働きづめだったため、祖母に育てられ10代初めの頃からドラッグまみれの荒れ放題の生活を送っていて17歳で高校を中退しています。

それから直ぐに、週末に家出し(ウィークエンドのステージ名の由来)、トロントで友人の家に住み込みながらマリファナを売りながら生計を立ててましたが、その友人の家も追い出され、女性の家を転々としながらなんとか生活をしながらアパレル店員のアルバイトをしながらも子供の頃から好きだった音楽への情熱は持ち続けて自分の曲を書きYoutubeへの楽曲投稿もしていたようです。

ひょんなことから2010年に出会ったジェレミー・ローズという音楽プロデューサーに才能を見出され、2010年にYou Tubeでジェレミーとのダーク・コンテンポラリー調のR&Bをテーマとしたコラボ曲が話題となり、2011年に無料配信ミックステープ[House Of Balloons]で注目を集ていきます。

同郷のドレイクにも注目され、彼のアルバムでコラボしたり話題を振りまいてからは2012年には3作のEPに3つの新曲を加えたコンピレーションアルバム[Trilogy]がビルボード・アルバム・トップ200の4位にチャートインするヒットとなります。
先に紹介したジェレミー・ローズとのコラボ曲もこのコンピレーションに収められており、Apple Music等のサブスクで聴くことができます。ダークR&Bという言葉がピッタリくる初期のザ・ウィークエンド作品集でしょう。

それからもアリアナ・グランデのセカンド・アルバムの[Love Me Harder]にソングライティングとデュエットで参加した曲もヒットし、他のアーティストのコラボで知名度を上げていきます。

人気を決定したのは、映画「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のサントラからのシングル[Earned It]と、その曲も収録されてるビルボード・アルバム・トップ200の1位に輝いたセカンド・アルバム[ビューティ・ビハインド・ザ・マッドネス(Beauty Behind the Madness)]でしょう。
私のウィークエンドの聴きはじめもこの時期です。

そこからは周知の通りスター街道まっしぐらです。
2016年の3作目[スターボーイ](Starboy)を挟み、2020年に世界的な大出世作[アフター・アワーズ]をリリースしています。

正にどん底生活からセレブ・スターへの道を歩んできましたが、スターというよりも、曲調や歌詞から(カナダ出身ですが)アメリカ・ポップス界のダーク・スターと言っても良いカリスマ性を持つシンガーです。
彼の歌の中には過去のトラウマや歩んできた汚れた生活にこびり付いて離れない人間の影や暗部が滲み出ているところが人を魅了し続けるのでしょう。

アルバム・インプレッション

さて、このどうしようもなく病み付き感タップリのシンガー・ソング・ライターが前作[アフター・アワーズ]に続き2年足らずで5作目のオリジナル・ニュー・アルバムをリリースしました。

それが今作[ドーン・エフエム] (Dawn FM)になります。
私が聴いたバージョンは、新たにリミックス曲を加えた[Dawn FM (Alternate World)]です。

前作がセールス的にもサウンドとしてもザ・ウィークエンド・ポップ・ワールドの頂点を極めた作品であり、聴き手側も一段落、ある意味少し活動が落ち着くのかなと感じていました。

しかしながらサプライズとして2022年1月にリリースされたのが今作[ドーン・エフエム]であり、勢いに乗って行けるところまで行ってしまおうというという勢いとオーラがそれぞれの楽曲から感じられる作品になっています。

前作[アフター・アワーズ]からの[Bliding Light]や[Save Your Tears]のようなビルボード・シングル・トップ・100のナンバー・ワンになったりロングセラーとなるヒットさえ出ませんでしたが、兎に角それぞれの曲のメロディー、アレンジが研ぎ澄まされています。

80年代リバイバルの旗手として台頭したザ・ウィークエンドですが、今作は前作よりクリーンでスペーシーな未来的な感覚となっていて、より曲の世界観や雰囲気をシンプルだけとアンビエント感も漂う秀逸なアレンジで盛り上げています。
これはすでに80年代リバイバルといった肩書をこえた今の2020年代の最もコンテンポラリーなポップ・ソング集と言えるでしょう。

アルバムは架空のFMステーション[103.5 Dawn FM]の放送という設定のもとに展開されていきます。

私が覚えている限り、古くは、元ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズの1987年に発表されたアルバム[Radio K.A.O.S.]がそうでした。

最近だと、このサイトで昨年インプレッションしたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの2020年リリースの[Magic]があります
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーはこのアルバムでも数曲プロデュースに参加していることからアイデアの元になったのは確実でしょう。

FMステーションのDJはジム・キャリーが演じており、オープニングとエンディング、曲間にもインターバルとしてジムのトークが挟まれながらシームレスに曲とトーク・トラックが展開されて行きます。
その辺りがアルバム全体にフィクションなのかリアルなのか聴き手を良い意味で混沌に陥れ、未来的な感覚を与える要因になっています。

変わったのは以前はドラッグやアルコール、セックスにまつわるダメ男っぷりをテーマにした歌詞が多く、男性リスナーとしてはそこが「こいつスーパースターだけどクズだな」とある意味面白かったのですが、今作は直接的や間接的にドラッグ・セックスをイメージさせるところは希薄であったとしてもダメ男ぶり全開という感じではなく、今までの作品を経たことで人間としての経験値が上がったのかより高度な恋愛やコミュニケーション部分に食い込んでいっているところでしょう。

例えば、4曲目の[Take My Breath]は自分を求めてくる女性に対してエクスタシーの高みに誘い込み挑発していく直接的なセクシャルなワードはほとんど無いながらも情熱的なエロティシズムを感じる歌詞が、ジワジワと雰囲気を高めていくエレクトロ・サウンドに乗って展開されていきます。
この曲がビルボード・シングル・チャートの6位まで上昇するこのアルバム内の最大ヒットとなります。

5曲目の[Sacrifice]は往来のザ・ウィークエンドらしい恋愛のパートナーシップに縛られず俺は俺が好きだから自分の好きなようにやるよ、といった一聴すると身勝手な男の主張なようですが、今の日本の若い人の結婚願望の低さともリンクして共感する人も多そうです。

6曲目のクインシー・ジョーンズの幼少期のトラウマに基づく独白のスポークンワードに続く、7曲目の[Out Of Time]はそんなテーマと重なる愛する人を取り戻そうとしても、その人に対する自分の行いのせいで全て手遅れになってしまったという歌です。
洋楽ファンにはもう知っている人も多いですが、この曲は日本のシンガー・ソング・ライターの亜蘭知子の83年作[Midnight Pretenders]をサンプリングしていて、正にシティ・ポップの鏡のようなキラキラしたリフレインを見事に嵌めた曲になっています。

この4,5,6曲目の流れは鳥肌もので何度聴いても歌詞とサウンドにゾクゾクします。

どちらかというとアルバムの前半は歌詞もアレンジもポップながらも鋭利な感覚を伴っており、後半は日本の侘び寂びに通じるようなカラオケで歌い込みたくなるような”唄”を意識した歌心を感じさせる曲が多くなっています。
ただ、このアルバムに参加したワンオートリックス・ポイント・ネヴァーやスウェディッシュ・ハウス・マフィア、マックス・マーティン、カルヴィン・ハリスといった第一線のトラック・メイカーがザ・ウィークエンドの歌心をサポートし、湿っぽくならない展開はさすがです。

11曲目の[Starry Eyes]なんかはエモの境地で、もう演歌に通じる悲哀を感じます。
心破れた女性に対して心から助けてあげたいという男の愛情を歌ってます。
ウィークエンドなので真面目な男の歌という感じでは無いですがもうそれに近いものがあります。

切なくエモーショナルなサビで久々にカラオケで浸って歌いたくなる洋楽ポップスで、アメリカン・ワビサビ・ポップスという新たなジャンルを極めたと言っても良いでしょう。

そしてラストは、ザ・ウィークエンドのコーラスをバックにジム・キャリーが、後悔を捨て去り自分自身を解き放ち魂を鍛え上げることで天国に出会え、ウィークエンドはそれまで演奏し続ける、と語ることで本編のエンディングとなります。

サウンド・リリックともに次の次元に行ったザ・ウィークエンド。
この先のアルバムがどのようになって行くのか想像だにしませんが、この作品の前後にも、ポスト・マローンとの[One Right Now]やマドンナとの[Popular]コラボ等、積極的な活動は留まるところを知りません。

最近だと2023年9月にリリースされたベテラン・ラッパーのディディや21 Savageらとのコラボ作[Another One of Me]が最後のコラボとなるという噂があるがどうなることやら。
基本的にはアルバム・アーティストとしてのウィークエンドが好きなので今後の動向もしっかりウォッチしていきたいと思います。

参考サイト

ザ・ウィークエンドの生い立ちや歴史については、Wikipedia や、下記のファッションやライフスタイルの情報サイト[Fashionsnap]を参考にしました。

オルタナティブR&Bを確立したアーティストと称され、地元カナダ・トロントでは2月7日が“ザ・ウィークエンドの日”に制定されているザ・ウィークエンド(The Weeknd)についてをお届けする。

ザ・ウィークエンドの押さえておくべき功績【連載:いまさら聞けないあのアーティストについて】| Fashionsnap

また、[Song Lyrics.Net]ではこのアルバムの全曲和訳が掲載されており、日本語で和訳を見ながらアルバムを楽しむことができました。多謝です。

ザ・ウィークエンドの5枚目のスタジオ・アルバム
イントロとタイトル・トラックには、俳優のジム・キャリーのナレーションが追加されており、アウトロ・トラックにも出演しています。

【アルバム全曲歌詞和訳】Dawn FM:ダウン・FM – The Weeknd:ザ・ウィークエンド | Song Lyrics.Net

上記サイトに掲載されていない追加新曲[Moth To A Flame]は下記のサイトに鋭い和訳と洞察が掲載されています。歌詞と音のイメージ的にも全く同意な洞察です。

実は、この歌詞には本当は秘められた想いがあると思うんです。
歌詞の解釈の仕方次第では、曲の印象も変わるかも!?

【歌詞和訳】「Moth To A Flame」曲名と歌詞に隠された本当の意味に鳥肌が立つ!? | Studio Webli

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