- リリース日:2020年10月30日
- 個人評価:★★★★☆
オリジナリティを深化させた珠玉のラヴ・ソング集
サム・スミスはイギリスはロンドン出身のR&B/ソウル系シンガー・ソング・ライターで、イギリスから火が点き、2014年にリリースされたファースト・アルバムのリリース時からワールドワイドにヒット・チャートにシングル、アルバムをチャートに送り込み、今ではアメリカでもヒット・チャートの常連であり、セールス的にも成功しています。
日本にもコロナ禍前まではコンスタントに来日していて、2018年のセカンド・アルバム [The Thrill Of It All (スリル・オブ・イット・オール)] リリース時にはさいたまスーパーアリーナで単独コンサートをする位の人気のようです。
R&Bやソウル・ミュージックをベースにしているのですが、80年代のポップス並にメロディアスで、サウンド面でも今風のダンス要素を取り入れつつ、アコースティックからゴスペル調まで幅広い音楽性を持っていて、まさに今、万人に受ける曲を作り続けているシンガーです。
デビュー・アルバム[In the Lonely Hour] からグラミー賞の最優秀の新人賞・楽曲賞と優秀レコード賞(Stay with Me ですね)、アルバムは最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム等を受賞していて、これだけ優等生的なアーティストだと逆に初めから聴く気が失せてしまう気がしますが、ヴォーカルはもとより曲が本当に素晴らしいです。
80年代からロック・ポップスを聴いていた人間としては、タイプは違いますが、セクシャリティを感じる風貌や声、メディアで報じられているイメージ等からジョージ・マイケルとやポール・ヤング等を思い浮かべてしまいます。
ふと考えてみると、現代の味付けをしていますが、本格的なR&B・ソウル路線の白人男性シンガーというこのサム・スミスしかパッと思い浮かばず、そういう意味では流行りに左右されずにしっかりとオリジナリティを確立しているアーティストということになります。
80年代のポップ・スターが、キラキラ輝くポップソングを歌いリスナーを熱狂させるという世界で生きるスターのイメージの裏に、実は私生活は影を帯びた苦悩を抱えた人生を送ってたりする人が結構いましたが、現在の個を重視する世相もあり、サムの歌は元からパーソナルなカラーを前面に打ち出していて、リスナーに彼のパーソナリティや恋愛観が届くような曲を歌っています。
サム・スミスはゲイであることをデビューして間もなしの2014年にカミングアウトしてますが、性の問題に悩むことは私の私生活にはほとんどないことですが、音楽を聴いているとジェンダーが表現に及ぼす影響を感じたり、社会的な問題ということを敏感に感じさせられることが多々あります。
サム・スミスもゲイとしてジェンダーとして表現に真摯に取り組む姿が特徴であり、ジェンダー・ニュートラルな姿勢を作品に反映させていっています。
そんなサム・スミスのジェンダー・アイデンティティや歌詞を含めた曲の変化については、幅広い洋楽ジャンルからニュースやコラムを精力的に発表している [Udisicovermusic.jp] に詳しく記載がされています。
2022年にリリースされる次作となる [Gloria] 発売時の記事であることを了承ください。
今回のアルバムの発売にあわせて、サム・スミスのルックスの変化が言及されることが多くなっているが、そんなサムがデビューのころから何が変わって、何が変わっていないのか、ライターの木津 毅さんにサムの歌詞にフォーカスした解説を寄稿いただきました。
デビューから現在までのサム・スミスの変遷を辿る:何が変わって何が変わっていないのか
今回紹介するのは、2020年にリリースされたサム・スミスにとって3作目のオリジナル・アルバム [Love Goes] です。
暖かそうな陽射しの下で、芝生の上に寝転ぶサムの姿がアルバム・ジャケット写真になっていて、今までの憂いを帯びたグレーと黒を基調としたカラーからは少し柔らかく明るめな印象を受けますが、今作でも歌詞は失恋や、恋愛・人間関係のすれ違いを歌っていて決して明るい印象ではありません。
基本的に痛々しさを伴う別れのストーリーが展開され、一つ一つの歌が恋愛小説を聴かせれる気分になります。
ただ、押し付けがましくなく、暗すぎにもならず、聞き流してBGM的に聴いても邪魔にならず、集中して聴くと染み入こんで来る音楽になっています。
男性シンガーが女性を想うという男性目線の世界からは一線を画していて、繊細で詩的なのですが、それが女性的な目線なのかというと、仮に女性がこれらの歌ったとしたら少し諦めのなさとかねちっこさとを感じてしまったり、相手を傷つけるというフレーズも目につき、それもちょっと違うような気がします。
すべての曲が彼の恋愛経験から生まれているかはわかりませんが、今作でも感受性の高いサムにしか出来ない歌の世界を作り出しています。
このアルバムは11曲目の [Kids Again] までが本編となっていて、中域・高域を中心に自在に操る歌唱力で非常に歌心を感じる曲達が並んでいます。
どちらかというとダンスやエレクトロ的なサウンドは控えめで、歌詞を含めて曲の世界観を作り上げるための味付け程度となっています。
特に7曲目の [For The Lover That I Lost] から11曲目の [Kids Again] までは、ピアノ等のアコースティックなサウンにストリングスを絡めていき、心に染み入り感情を揺さぶられるスロー・バラード曲集となっています。
例えば10曲目の [Love Goes]はクラシックのバラードかと思うくらいピアノ・フレーズが印象的で、曲の後半のストリング調なエレクトロからストリングに入るとことろはトラッド的な味わいを出してます。
11曲目の [Kids Again] はアコースティック・ギターから始まり、コーラス部ではノスタルジックな気持ちを高めてくれるオーガニックなメロディが絶品な曲となっており、ラブ・ソングというよりも子供の頃に無くしてしまった汚れのない気持ちを懐かしがるような、振り返るような歌詞になっています。
私がこのアルバムをレビューに取り上げるに当たって改めてこのアルバムを改めて聞き直した時に、これってどの曲が好きになったんだっけ、と思うくらい淡々とした印象を受けましたが、前半はダンス・エレクトロの味付けをした今までの路線を深化させていった曲となっていて、後半は曲のイメージに不必要な余計なサウンドを排除したアコースティックな曲が中心となっていて、じっくり聴くとどの曲も素晴らしく、この一曲というのが選べない位の珠玉の楽曲集となっていることです。
このアルバムを2020年時に好きになったのは、本格的とか、重厚・格式高いとう言葉が野暮に感じる程、一曲一曲が素晴らしい出来に高められていつつ、メロディが綺麗であり、聞き手を選ぶような敷居の高さが一切ないことに感銘を受けたのを思い出されました。
12曲目以降はサブスクだと気付かずに聞き流してしまいそうになりますが、ボーナス・トラックの位置づけとなっており、スマッシュ・ヒットとなった12曲目の [Dancing With A Stranger] ではダンスやエレクトロ系のサウンド色を強めていき、他のボーナス・トラックもその路線の曲が多くなっています。
14曲目の [To Die For] のみが異色となっていて、元々はこの曲のタイトルがアルバム・タイトルになるはずだったようですが、「死んでも良い誰かが欲しい」というメッセージがコロナ禍の影響でタイトル変更になったようです。
サム自身も歌詞の世界を積極的にメディアに発信していて、上記で紹介した[Udisicovermusic.jp] では彼自身による本編となる曲の全曲解説が紹介されていて、こちらも合わせて読んでみると良いと思います。
英シンガー・ソングライターのサム・スミス(Sam Smith)が2020年10月に発売したサード・アルバム『Love Goes』。発売後1週間でアルバム・セールスは350 万枚以上に達し、70億回を超えるストリーミング再生回数を記録し、現在もロング・セールスを記録中となっているこのアルバムのオリジナル版に収録された全11曲の本人による解説を掲載。
サム・スミス最新アルバム『Love Goes』全曲本人解説を掲載。ライヴ・アルバムも発売決定
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