- リリース日:2020年4月10日
- 個人評価:★★★★☆
オリジナリティ精神と実験的意欲のバランス感
ザ・ストロークス(The Strokes)がデビューした時期の2020年代前から10年以上、私にとって仕事や私生活で結構一杯一杯な時で、音楽リスニング歴がすっぽり抜けている時期でした。
一般にも話題に上がったアーティスト、バンドの有名曲だけがテレビや雑誌やネット等でアンテナに引っかかって曲聴きしていた程度でアルバムをじっくり聴いたりすることがない時代で、J-Popや売れてる日本のヒット・ソングを耳に入ってくるがまま受動的に聴く程度の時期でした。
このバンドは2020年少し前から活躍し成功したバンドで名前程度は知っていると言った具合で、実際に音楽リスニング歴を再開した2010年少し前位には、既にロック界のメジャー・バンドになっていて、初めて聴いたのは2011年リリースの4枚目のアルバム[Angles]からでした。
当時は80年代から90年代初めの頃のロックとJ-Popの耳馴染みが良くてゴージャスで煌びやかな物を聞いていたのでピンと来なかった印象があります。同様に5枚目のアルバム [Comedown Machine] もそうでした。
その2作も今聞くとしっかりギターが鳴っててしっかりロックしててポップでもあり、カッコ良いアルバムなのですが、90年代半ばから洋楽離れしている耳には当時は”今のロック”に追いつけなかった印象があります。
ザ・ストロークスは、アメリカはニューヨーク出身のロックバンドです。
このレビューを書く前まですっかりイギリスのバンドかと思ってましたが、当時のイギリスというとレディオヘッドを筆頭にコールドプレイ、ミューズとダークな印象のロックバンドが代表であり、レディオヘッド等はロックというジャンルからはもう離れていてエレクトロな方向に行ってしまっていて、時代はヒップ・ホップ、ダンス、EDMが流行ってきていて、ロック・バンドもボーダレスな方向へ自然と転換していった時代だったと思います。
そんな時代を考えるとザ・ストロークスがニューヨークのバンドと聞いてあぁ成程と今更ながら腑に落ちてます。
ガレージ的なアナログ感とDIY精神、ジャンルに囚われない、時に実験的で自由なスタイル、ヴィジュアル的にはスタイリッシュなイメージはヴェルベッド・アンダーグラウンドを筆頭とするニューヨークのバンドを想起させます。ただどちらかというとアヴァンギャルとというよりも、ポップで洗練された先人達に近い印象があります。
また、デビュー当時はロックンロール・リバイバルの旗手の先鋒としてオリジナリティを発揮し、その後のバンドへ大きな影響を与えています。
そして、このザ・ストロークスにとって6枚目のアルバムがこの [The New Abnormal] です。
往来の洗練されたロックンロール曲もありますが、実験的で往来のロックとは肌感覚が異なるボーダレス化を感じさせる曲もあり、ヴァラエティに富んだ印象を受けます。
そして、曲のクオリティという意味ではここ2枚位のアルバムに比べると印象に残る曲が多く入ってます。
相変わらずアルバム・トータル・タイムは50分弱と短か目ですが、勢いで一気に聴かせたり、雰囲気で聴かせるというよりも、1曲1曲をじっくり聴かせるという作りをして来てます。
冒頭の1曲目のアルバム・タイトル・トラックの [The New Abnormal] から2曲目の [Selfless] の流れはクールな感触でキーボード等のエレクトロ要素はないですがどこか未来的な感触があります。
続いて往来ファンの期待に応える曲が続きます。
3曲目の [Brooklyn Bridge to Chorus] は80年代的なキーボードをフィーチャーし、ダンサブルなイントロから始まり、サビに入るとフックの印象的な明るいロックチューンに様変わりします。
また4曲目の [Bad Decisions] はこのアルバムで一番、往来のストロークスらしさを感じる楽しくノリの良い元気の出るロックンロールとなってます。
5曲目の[Eternal Summer] は、ジュリアン・カサブランカスの裏声がミディアム・チューンのゆったり目の爽やかささえ感じる楽曲に新鮮な印象を感じました。
そして、今作で一番実験的なのは、6曲目の [At The Door] だと思います。
キーボード、バッキング・ギタとーヴォーカルのみで作られたシンプルなトラックなのですが、ストーリー性が感じられ神秘的な世界観を描いたトラックになってます。
歌詞は抽象的ですが、目に見えないプレッシャーから逃れてきたが、少しずつ状況を理解をし、戦いに挑んでいく姿を描いているように思えます。
レトロなSF映画のようなPVも変わってて面白いです。
2000年前後にデビューしたロック・バンドも既に中堅どころかベテランの域に達しており、早くして成功を手に入れたバンドはハングリー精神の維持もありますが、ビジネス面では、マンネリに陥らないよう、時代に取り残されないように工夫してきていると思います。
このストロークスも同様なプレッシャーはあると思うのですが、新たな事にチャレンジするフットワークの軽さと、良い意味でのデビュー時からの自分たちの音楽(ロック)というぶれない姿勢が感じられます。
やはり曲の良さと、演奏の良さをキープ・レベルアップしていっているのが良いですね。
デビューから不動の5人で活動していることも自分たちのやりたいこととバンドの世界観を高めていっているのにかなり功を奏しています。
コロナ禍でここ3年ばかりロック・バンドはツアーから離れてビジネスのやり方、音楽活動の仕方を変えていきつつあると思います。
そんな中でオリジナリティを堅持しつつも実験的に挑んでいくベテランの域に入ったザ・ストロークスの今後の活動にはまだまだ目が離せないです。
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