- リリース日:2021年2月12日
- 個人評価:★★★★★
ロックンロールはまだまだ高揚感と感動を与えてくれることを実感させてくれるアルバムです
今回は2021年にリリースされたアメリカのハード・ロック・バンド ザ・プリティ・レックレス(The Pretty Reckless)の4作目のオリジナル・アルバムの [デス・バイ・ロックンロール] (Death By Rock And Roll)を紹介します。
アーティスト紹介
ザ・プリティ・レックレスはアメリカの女優・モデルのテイラー・モンセンがボーカル及びリーダーとして2008年にデビューしたアメリカのハード・ロック・バンドです。オルタナ・バンドとしても紹介されますが、私はテイラーのティーン時代の女優やモデル時代を知らないためカッコ良い女性ヴォーカルのロック・バンドとして先入観無しに聴き始められました。
テイラーは今はほとんど音楽一本でアーティスト活動をしているようです。
テイラーと共にソングライティングも務めるリード・ギタリストのベン・フィリップス、ベースのマーク・ダモン、ドラムのジェームス・パーキンスのフォー・ピース・バンドでデビュー・フル・アルバム前のEP[The Pretty Reckless]からメンバーチェンジもなく活動しています。
テイラー・モンセンの妖しさと艶やかさが印象的なパンク、グランジのフィルターを通したハード・ロック・バンドで、表面的には色気や華やかさが前面に出ているので西海岸出身かと思ってましたがニューヨークのバンドです。
テイラーのイメージを抜かすと、サウンドはアンダーグラウンド感や、ニューヨークメタル特有の演奏のソリッドさと、暗くギラついたコンクリート感がある冷ややかさと湿り気が強く、たしかに西海岸のバンドにはないニューヨークのアンダーグラウンドの空気感を持つアンダーグラウンド・バンドやメタル・バンドと共通する部分があります。
そしてこの曲の良さとテイラーの中低域を中心としたヴォーカルが加わると圧倒的な魅力を発します。
テイラーのヴォーカルはやさぐれ感とドスを効かせた凄みはありますが、耳を劈くような甲高い声ではないので、女性のロック・シンガーにたまに見られるシャウト箇所が癇に障るところがなく、基本的にしっかり丁寧に歌うロック・ヴォーカル・スタイルが聴きやすく、考えてみればこれと言ってテイラーと似たスタイルの女性ロック・ヴォーカリストっているようでいなかったのではないかと思うところがあり、声と歌唱スタイルに引き込まれるところがあります。
現在のハード・ロック界隈は1980年代から2000年代の超ベテランとベテラン・バンドが今も代表的バンドとなっているジャンルですが、このバンドも70年代以降の典型的なハード・ロック要素を感じるところはあります。
ただテイラー自身がグランジやパンクのフィルターを通してビートルズやオアシス等からも影響を受けたというので今の時代でも古いハード・ロック・ファンにもハード・ロックを過去のものというイメージを持つ若い人にも、新旧のロック・ファンにしっかり訴求する若手有望株だと思います。
勝手にハード・ロック界の三羽烏(さんばがらす)として、アメリカはこのバンド、イギリスはザ・ストラッツ、イタリアではマネスキンと思っていて、今後のハード・ロック・シーンを引っ張っていって欲しいです。
テイラーやバンドの歴史や過去のオリジナル・アルバムについては下記の激ロックの記事が詳しいです。
強烈な個性を持ったフロント・ウーマン、Taylor Momsenを擁するオルタナティヴ・ロック・バンド THE PRETTY RECKLESSが、5年ぶり通算4枚目となるニュー・アルバム『Death By Rock And Roll』をリリースする。
THE PRETTY RECKLESSが5年ぶりのニュー・アルバムをリリース! | 激ロック(LOUD ROCK PORTAL)
アルバム・インプレッション
このアルバムは2021年が始まって2月にリリースされたのですが、私にとって2021年初のファイヴ・スター・フェイヴァリット・アルバムになりました。ロック業界でもこのアルバムの完成度は話題になっていて、伊藤政則さんのパワー・ロック・トゥデイでも結構な頻度で紹介されていて2021年を象徴するハード・ロック・アルバムの中の1枚だと思います。
今までこのバンドのアルバムはあまり深く聴いてこなかったですが、ボーカルのテイラー・モンセンの妖艶さとフォトジェニックに映えるヴィジュアルが魅力のハードロックバンドという印象でしたが、今までのアルバムでも曲の良さはこのバンドの売りでしたがこのアルバムで一曲一曲がさらに際立っていて名曲揃いと言って良く、かつアルバムトータルとして傑作となっています。
サウンド面でキャッチーさ強くなった感はあるのですが、変にポップで媚びた曲は一切なく、アルバム通して緩急つけた曲順の流れもスムーズで、とにかく曲が良いので圧倒的に聴き手を引き込んでいきます。またテイラー自体のヴォーカリストの表現力と存在感が増したことも要因と思われます。
アルバム・ジャケットも前作のグランジ・バンドっぽいそっけない感じのイラストではなく、このバンドの持つ陰影と艶やかさをテイラーのヴィジュアルを前面に出したメジャー色が強い、目を惹くグラフィックになっています。
特筆すべき曲というか気に入った曲を紹介すると、まず1曲目のドライブ感があり、サビに入るところのボーカルがゾクッとくる[Death by Rock and Roll]はロック界の伝説の27クラブを題材として、「私が死んだら墓石にこう書けばいい – ロックンロールによって死んだ」という古典的なテーマを真っ向から本気で取り上げているのですがこの時代にこの潔さは、青くさいとか古臭いという感情が一切吹き飛ぶくらい曲とヴォーカルがハマってます。
3曲目の [And So It Went] ではレイジ・アゲインスト・マシーンのギタリストのトモ・モレロが参加していて、おそらくフリーキーなギター・ソロはトムのものだと思われます。曲はレイジほどではないですがちょっとグルーヴィーなノリを持つカッコ良いロックンロールになってます。
そして4曲目の[25]も名曲でしょう。PVが曲の憂鬱な雰囲気にマッチしていて、1から25の数字を通して25年の人生を悲観して振り返っているようであり、ダークなスローチューンなのですが後半ではそれでも生きていくという決意や意思を想起させる歌詞も良いです。
今回のアルバムは得意のダークなロック・チューンも良いですが、後半に配置されているアコースティックな曲がハイライトといっても良いのではないでしょうか。
まず、9曲目のエモーショナルに歌い上げるスロー・チューンの[Standing On The Wall]はなアコースティック・ギターから始まり、ストリングスが絡み、最後はドラムとベースが加わり盛り上げていきます。
11曲めの往年のアメリカのカントリーテイストを感じさせる [Rock and Roll Heaven], 1970年代にタイムスリップしたようなノスタルジックなアメリカン・ロッカ・バラード[Harley Darling]のラスト2曲はメロディがとても素晴らしく、アメリカン・ロックの持つ情感豊かさを印象付けてアルバムは終焉します。
個々の曲の魅力という点ではこのアルバムでしっかり才能開花したと同時にバンドとしてのステータスもしっかり確立した感じです。
チャート・アクションを見てみると、アメリカでは前作程には上位に食い込まなかったようでUS Billboard 200で最高28位、元々チャート・アクションが良かったイギリスでは最高6位と安定したセールスを記録しています。
また才能開花したこのアルバムを聴いた後に過去の3rd,2nd,1stアルバムを聞き直すとバンドの成長具合がわかって面白いです。
私も数回聴いて耳に引っ掛からなかった前作 [Who You Selling For]を聴いてみると、この4枚目の完成度に繋がっていく過程が見えてきたりします。
このバンドの根幹にあるのはダークで本気のハード・ロックンロールと曲の良さです。
そこはデビュー作から一貫して変わらないブレない姿勢とメンバー・チェンジもなく続くバンドの結束力が確実に成長に繋がった要因だと思います。
こういう名盤を聴くとロック・バンドはやっぱりアルバムで聴かせてほしいと感じます。
テイラーは2021年時点ではまだ30前のようで、まだまだミュージシャン、バンドとしての成長も期待でき、これからが楽しみなバンドです。来日公演はまだされてないようなので是非、生で見てみたいです。
追伸…
2021年11月4日に、[Other Worlds] という企画盤アルバムがリリースされています。
アルバム「[デス・バイ・ロックンロール] (Death By Rock And Roll)」に収録されていた曲のアコースティック・バージョンや別バージョン、アルバム未収録のカヴァー・ソングとして、サウンドガーデン[Halfway There], デヴィッド・ボウイ[Quicksand], ニック・ロウ[(What’s So Funny ‘Bout) Peace, Love, and Understanding]等が収録されています。
企画盤なので私もあまり期待せずに聴き始めましたが、テイラーのヴォーカリストとしてのオリジナリティや表現力が前面に出ており、このアルバムの曲の良さを再確認でき、このバンドが好きになったファンにはおすすめのアルバムになっていてスキップして聞き逃すには勿体無いアルバムになってます。
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