- リリース日:2021年7月9日
- 個人評価:★★★★☆
愚直そうだけど器用な成長株ニューUKロック・アクトです
今回は2021年にリリースされたインヘイラー (Inhaler)のデビュー・アルバムの [イット・ウォント・オールウェイズ・ビー・ライク・ディス] (It Won’t Always Be Like This)を紹介します。
アーティスト紹介
インヘイラー (Inhaler)はアイルランドはダブリン出身の4人組のロック・バンドです。
ギター兼ヴォーカリストのイライジャ・ヒューソンはU2のボノの息子です。
日本でも海外もそうだとは思いますが、二世タレントというのは話題にはなるかもしれませんが、話題だけでは音楽業界の場合、ヒットが約束されることなどは無いです。
個人的に80年代のU2は大好きですが「へ〜そうなの」という程度で、2021年のこの母国アイルランドとイギリスでヒットしたデビュー・アルバムを聴き始めたところ、声を聞いてなるほどねと思いました。
ボノの息子情報がなくともボノの若い頃そっくりだなぁとなるヴォーカルです。
親父の若かりし頃の熱さを少し抑えたフレッシュさが良いですね。
バンドは2012年にダブリンのカレッジで結成されたようですが、イライジャ初め2023年現在、23,24歳のようなので日本で言うと中学生時代の仲間がバンドを組んで、メンバーチェンジもなくそのままメジャー・デビューしてしまったと言うマンガやドラマになりそうな感じでここまでキャリアと積み上げています。
10年前にバンドが結成され、それまでライヴやシングルリリースを中心に活動してきて、パッとでの若手というわけではなく、オリジナリティを確立する期間が十分取られたようです。
2019年頃から本格的にシングルをリリースし始めて、このファースト・アルバムにも収録されている[It Won’t Always Be Like This], [My Honest Face]はその頃のシングル曲です。
メンバーは影響を受けたバンドとして、ザ・ストーン・ローゼズ、ジョイ・ディヴィジョン、デペッシュ・モードの80年代デビューのニュー・ウェイヴ勢を挙げいて、現役で活動しているバンドもいますが、インヘイラーのメンバーがバンドを始めた時期の2012年にも若い連中に影響力を与えているのがやっぱり日本を含めて世界で評価されているブリティッシュ・バンドは、(インヘイラーはアイルランド出身ですが)ブリティッシュの精神性と偉大さと魅力を持つ大スターなのだなと改めて感じます。
そして満を持してリリースされたデビュー・アルバムがこの[It Won’t Always Be Like This]と言うことになります。
母国アイルランドとイギリスではチャートでナンバー・ワンを獲得してます。
アルバム・インプレッション
イライジャ本人が父親やU2を意識して音楽活動をしている訳ではないと思いますが、この時代に珍しい80,90年代のニューウェーヴ・テイストがほんのり香るロック・アルバムで、凛としたギターサウンドはU2の初期を思い出させます。
イライジャのヴォーカルも素朴なタイプでありながらも声自体のレンジはある程度広く、時に熱く歌い上げるところがグッときます。
しっかりと芯の強さを感じるサウンドとヴォーカルが魅力で、新人バンドならではの青臭いところは残しつつも、凛とした空気感がアルバム全体を通して漂います。
4人のルックスもかなり良く、一昔前であれば一躍スターダムに登り上がっても良いバンドだと思います。
実際、アイルランドでは何年かに一度の国民的ロック・バンドの登場といった感じではないでしょうか。
1曲目のタイトルトラック[It Won’t Always Be Like This]は2019年のシングルの新録で、この曲から懐かしさを感じる爽快なメロディに心が晴れます。
2019年版よりもヴォーカルはより力強くなり、クリアーなサウンドでギター・ソロもよりエモーショナルになってます。
2曲目の[My Honet Face]もこのアルバムの代表曲ですね。
シンプルなエイト・ビートでファンへ向けた言葉なのか「君を誠実な場所へ連れでいくよ、俺は自分の本当の顔は見つけられてないけど」と言うフレーズが、青春ソングっぽく耳に残るメロディとフレーズです。
4曲目のシングルにもなった [Cheer Up Baby]も元気を出せよというタイトル通りのシンプルな曲ですが、サウンドにも歌詞にも繊細さもあり、聴いている時は10代、20代にフラッシュバックするような魅力を持った曲です。
アルバムではこの前半のこの3曲の掴みが特出していて、絶対にライヴでは大合唱になることが目に浮かんできます。
その後の曲もまずまず良く、捨て曲がないアルバムとなっています。
確かにここまでストレートな王道ブリティッシュ・ロックだと新しさは無いと行っても良いかもしれませんが、9曲目の[Totally]なんかはあくまでもインヘイラー節でありつつもダンス・ビートを取り入れたりしています。
10年の基礎を固めてまだ20代前半の若手ロック・バンドがしっかりとしたファンベースを築いてから満を持して発表されたアルバムなのでこの先の活動にも期待が持てます。
迷走するようなことのないブレない雰囲気も持っていて、今の時代だからこそギター・ロックという彼らの本気を見ていきたいと思います。
この手の革新性よりも曲の良さやバンドの個性で勝負といバンドはアルバムを重ねるうちに地味な存在になってしまう恐れがおりますが、アルバムを聴く限りは愚直なバンドではなく、アコースティックやダンス・エレクトロ要素を隠し味に使う音楽性の幅をもっているので、これからどう成長し、どう変化していくかも含めて今後の活躍に期待大です。
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