INSAINT – EP – 春ねむり (harunemuri)

stainedglass

はじめに・・・

今回のブレイク・アウト・アクトは2023年9月末にリリースされた春ねむりの5曲入EP [INSAINT – EP]を紹介します。

ブレイク・アウト・アクトというコーナーはこれからブレイクするだろう新人アーティストを紹介することが目的の一つですが、”新人”だけではなく、キャリアを数年積んで注目を集めだしてとうとう旬の時期到来となったニュー・タイプ・アーティスト紹介も、もう一つの目的としています。

アーティスト紹介

今回紹介する春ねむりは旬の時期到来となり今後のブレイクが期待できるアーティストです。

春ねむりは2016年デビューの神奈川県横浜市出身のシンガー・ソング・ライターで、セカンド・アルバムで2022年のリリースの[春火燎原(Shunka Ryougen)]から聴きだして個性的な音楽とキャラクターに一発でやられました。
既にアルバム・EPを5作の作品をリリースしています。

今や日本に留まらずアメリカの音楽メディア[Pitchfork]で[春火燎原(Shunka Ryougen)]が8.0点の高得点を獲得しており、既に北米やヨーロッパ・ツアー、海外フェスにも参加し盛況を呈しているという点では逆輸入的に近い話題のアーティストでもあります。

日本語歌詞中心ですが、今やK-POP(これは英語詞が多いようですが)や、ラテン・ヒップホップのように、今の時代、音楽って本当にグローバルに広がっていて、センスやスピリットがあれば評価される音楽やアーティストが多くなってきたなと実感します。

日本代表としては彼女がそんな今の時代の第一人者と言っても良いアーティストではないでしょうか。
アーティスト名からゆるふわ系とか癒し系を想像してしまいますがボーダレスで先鋭的、アヴァンギャルドさも持ちながら十分キャッチーで一般層への訴求力を持つサウンドで、日本ゆかりのグローバル・アーティストとしてはエレクトロ・ダンス寄りのリナ・サワヤマ、ロック寄りの春ねむりで決まりだと思います。

EP インプレッション

6曲入りで18分のEPですが個人的にはもう今年の名盤と言っても良いでしょう。
捨て曲一切なしのこのサイズはある意味今の時代に一番フィットするスタイルではないでしょうか。

アルバム・タイトルの[INSAINT]は春さんがどのような意図でつけたかはわかりませんが、ヒンディー語で[洞察力]を意味するらしく、現代の日本だけでなく世界的に共通する問題を彼女なりの洞察力で表現することが目的なのでしょうか。

前アルバム[春火燎原(Shunka Ryougen)]がエレクトロやダンス的要素もある反面、時折ノイジーな要素を含み、曲間に含まれる宮沢賢治の[よだかの星]の詩が挟まれていたり文学的でライトな面とハードさのバランスを絶妙な作品でした。

ただ、今回のEPは全曲ギター・ドラム・ベース・ボーカルで構成されるバンドセットで録音され、ほとんどハード・コア・パンクと言っても良いかなりヘヴィなサウンドで怒りが前面に出た作風となっています。エレクトロ・ダンス的要素は希薄になっていますが曲間で効果的に作用しているのがロックとは括れない魅力があります。

そしてEP丸々、ヘヴィにスピーディーに駆け抜けていきます。

このようなスクリームやグロウル系スタイルは一部のヘヴィ・メタル・シンガーに通じるものがありますが、メタルでもなくハード・コア・パンクでもないスタイルであり、バックにエレクトロを挟んだり、ジャンルを越境したサウンドがオリジナル性を確立しています。

そんなヘヴィなサウンドの中にもどこかフックのあるメロディが含まれており、単なるオルタナティブ・ヘヴィ・ロックとはなっておらず、なにより春ねむりのクリーン・ヴォイスで歌われる希望的な響きを持つ声が非常に印象的です。

その綺麗なクリーン・ヴォイスから突然厳ついスクリームへ移行するヴォーカルのギャップの激しさがロック・ファンには非常に魅力的です。

歌詞はどこか現代が世紀末であるかのようなように歌われながらも、実はごく日常的にある事柄や現代人が感じる不安や不満を問題提起しているように思われ、一聴すると過激に感じますが、実は繊細でありそんな中でも前へ進んでいく意思が強烈なインパクトを残します。

トラック・インプレッション

1曲目の[Destruction Sisters(ディストラクション・シスターズ)]はこのアルバムのテーマとなると言っても良い矛盾や欺瞞に満ちた社会への反抗心と、同胞達をアジテートする歌詞が印象的です。
これは往来からのロック・ファン誰が聴いてもロック本来の初期衝動を今の時代にアップデートされた名曲です。

PVにもなっていて、夜に燃える炎をバックに歌い叫びダンスする春ねむりというアーティストの今を象徴する魅力的な作品になっています。

春ねむり HARU NEMURI「ディストラクション・シスターズ / Destruction Sisters」(Official Visualizer)

2曲目の[私は拒絶する]は皆と同じであることを求められ変わった人であることと思われることや、レッテルやジャンル分け、見た目で判断されることへ徹底的に拒絶・拒否する意思表示が歌詞になっています。
スローで始まりつつミディアム・テンポに移行し、後半は激しいスクリームと化し、痛々しささえ伝わってきます。
そんなヘヴィに突き進みつつもラストは浮遊感を感じる美しいコーラスが混じり合って曲が終了します。

4曲目の[サンクチュアリを飛び出して]は、彼女の若い頃を歌っているのか、良い子でいることや型に嵌ることから逃亡することを歌っているようです。
「この夜に星が燃えているのはされにもきみを裁かせないため」
「きみが来ると信じていつまでだって待っている」
とその逃亡先は必ずしも闇ではなく光であることが響いてきます。

そしてラスト6曲目の[No Pain, No Gain is Shit]はこのEPで最速スピード・チューンです。
尖りまくって感情のまま怒りを放出させまくって1分半で最速で疾走して終わります。

メタルやパンクと言ったジャンルという言葉と一緒くたにできない孤高のオリジナリティです。

歌詞はもう何を言いたいのかさっぱり分からず、怒りのパワーのみがストレートに突き刺さります。
言葉を聴き手がそのまま受けとめるだけです。
ラストに繰り返される[No pain, no gain なんてクソだ!]というフレーズが頭と耳にこびりつきます。

おわりに・・・

正に孤高のオリジナリティの塊のような人で、万人受けするようなアーティストではないですが、新しさがあり曲が良いので訴求するファン層は狭くはなく、アーティストの個性が評価される時代なのでキャラクターと音楽性を研ぎ澄ましていって日本でもブレイクアウトしていくことは間違いないはずです。

参考サイト

タイムリーに[音楽ナタリー]でこの[INSAINT – EP]の彼女のインタヴューが掲載されてました。
今回、周囲の情報をインプットする前に私のインプレッションを上に書き綴ったので後でしっかり読みたいと思います。

集大成的な傑作をものしたあとだけに、当時のインタビュー(参照:春ねむり「春火燎原」インタビュー)で「次はめっちゃ気の抜けたものを作りたい。延々四つ打ちみたいな」と笑っていた春ねむりだったが、意外にも今作では全曲バンドセットでのレコーディングを敢行。しかし奇妙さと荘厳さとバイタリティを兼ね備えた独創的な音作り、強烈なメッセージ性はバンドでも健在である。

春ねむりは拒絶する”一般的で健常な男性”を中心に作られている社会を | 音楽ナタリー

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