2023年の[ブレイク・アウト・アクト (Break Out Act)]の第3回目は、PinkPantheress(ピンクパンサレス)の2023年11月10日にリリースされたファースト・オリジナル・アルバムの[Heaven Knows](ヘヴン・ノウズ) を聴いてみました。
もうイギリス・アメリカ等ではこれからブレイク時期をとっくに通り越してチャート上位へヒット曲を送り込んで高い評価を得ててますが、日本では今このアルバムで話題になり始めたという段階です。
Heaven Knows (ヘヴン・ノウズ) – PinkPantheress(ピンクパンサレス)
- リリース日:2023年11月10日
アーティスト・アルバムインプレッション
PinkPantheress(ピンクパンサレス)はイギリスの南東部にあるケント出身の2001年生まれの女性アーティストです。
17歳の頃にGarageBandで音楽制作を始め、TikTokで2020年に楽曲を発表して注目を集めるようになりました。
2021年にTikTokでバイラルヒットした曲を集めてミックス・テープという形式で[To Hell with It]をリリースし、オリジナル・アルバムとしてはこの[Heaven knows]が初めてとなります。
彼女の名前を欧米全体に広めることになったのが、ミックス・テープとオリジナル・アルバムの間にリリースされたアメリカの女性ラッパーとコラボしたアイス・スパイスとのコラボ曲となる[Boy’s a Liar Pt. 2]です。
このファースト・アルバムにも収録されています。
私がこの人を知ったのは小林克也さんのベストヒットUSAの今週のトップ20でジワジワと上位に上がって数ヶ月に渡ってチャートインしていたこの曲で、毎週見ていて各曲10秒程度のチャート曲紹介でも目と耳を惹き印象的だったのですっかり覚えてしまいました。
アイス・スパイスとのコラボPVでは、ごくごく普通の女の子っぽいところがフレッシュでした。
クラスにいるちょと可愛くオシャレな気になる不思議ちゃん系の女の子が実はポップ才能全開だったというサプライズ感がいいですね。
個人的には[Boy’s a Liar Pt. 2]路線の曲のキラキラした曲が散りばめられた彼女も影響を受けたK-POP的なノリの良いアルバムになっているのかなと思っていましたが、どちらかというとクールな感触をもつアルバムで、浮いてはないですが[Boy’s a Liar Pt. 2]がこのアルバムの中で一番ポップで明るい曲でした。
エレクトロ・ダンス・サウンドなのですが、曲によっては強めのビートに浮遊感と神秘的なところもあるエレクトロに彼女特有のクールで柔らかさなヴォーカルが絶妙に絡むのが特徴的です。
エレクトロのアンビエント的な心地良さがありながらもピート感の強さがアクセントになっていて、BGM的に聴き流すのをドラムンベース・ビートが良い意味で邪魔をしているのがこのアルバムの特徴です。
デビュー・ミックス・テープが1分から2分代のサンプリングとループ・サウンドに彼女のウィスパー系ヴォーカルが乗るミニマムなTikTokやSNSでのバイラルを意識した曲作りで面白く可愛いトラック・メーカーで、そこはそこでSNS自体のアーティストとしての面白さはありました。
そして、このアルバムではただクールなダンス・ミュージックでは片づけられない、ミックス・テープの時のアッパーなドラムンベースが印象的なのは変わらずに、彼女のナチュラルで綺麗なウィスパーヴォイスに内省的とも言える歌詞が絡み、曲の長さも1分から2分台だったのが、2分から3分台になり、必然的に歌としてより聴きごたえがでて、より歌の強度が上がっています。
アルバム内のトラックは全て良い曲ですが、特出しているのがラスト2曲です。
12曲目の[Capable of love]はアコースティック・ギターから始まりエレクトリック・ギターが印象的に使われていくようになります。どこか90年代のロック的な音像とドラムンベースが絡む彼女らしい不思議な世界をイメージさせる曲になっています。
ラスト13曲目の[Boy’s a Liar Pt. 2]は US Billboard Hot 100では3位まで上昇したポップスファンの間では言わずもがなの2023年を代表するヒット曲です。
ピンクパンサレスのパートでは、プレイボーイで軽めのボーイフレンドに振り回させる優しく自分に自信がなさげな女性を演じていて、片やアイス・スパイスのパートでは、そんな男をディスっている強気な女性という対比が、この曲のパート1のピンクパンサレスのみのヴァージョンと比べて断トツに面白い曲に仕上がってます。まさにコラボの相乗効果の鏡のような曲です。
今作はムラ・マサをはじめとして周囲の優秀なサウンド・プロデューサーのサポートを得て制作されたアルバムですが、ピンクパンサレスさんもデビュー・アルバムにしてアーティストとしての個性をこのアルバムで確立できたという手応えを十分感じていることが聴いてわかります。
参考サイト
ピンクパンサレスの生い立ちや今のミュージック・シーンの立ち位置等がうまくレビューされているのが[Real Sound]のサイトでした。
現時点でまだ22歳という若さや、来年のオリヴィア・ロドリゴのUSツアーに参加するといったさらなる飛躍の機会を控えていること、何より『Heaven Knows』が1stアルバムであることを踏まえると、おそらくは本作もあくまでピンクパンサレスにとっての通過点にすぎないのだろう。『Heaven Knows』を聴いていて感じるのは、すでにその先の未来を歩きながら人々を魅了し続ける、美しいアーティストの姿である。
NewJeansまで通ずるリバイバルの象徴的存在 ピンクパンサレス、ポップソング作家としての真価 | RealSound
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