- リリース日:2020年6月18日
- ★★★☆
スーパーニュートラルなアコースティック・クイーン
フィービー・ブリジャーズ(Phoebe Bridgers)は、アメリカはカリフォルニア州パサデナ出身のシンガーソングライターです。
2017年にファースト・アルバム [Stranger in the Alps] でデビューし、3年ぶりのこの [Punisher] が2作目となります。
不思議なアルバムです。
ファースト・アルバムはアコギが前面に出たアコースティックアルバムでした。
この [Punisher] もアコースティックなのですが、ギターがジャカジャカと前面に出ず、うっすらとしたアコースティック・ギターサウンド中心に、キーボード・オルガン・ドラム・弦楽器(ストリングス)・フィドル等のカントリーフレーバーの楽器等がフィービーの囁くような綺麗な声質のボーカルをささやかに包み込んでいくような曲が続きていきます。
演奏が前に出過ぎてないのでバンド・サウンドっぽくなく、DIYのような宅録感だったりコンピュータで作られたかのようなサウンド。
それでも機械的な雰囲気を感じさせない生っぽさも温かさもある。
そして売れようとか万人にアピールしようとか思っておらず、彼女自身が意識していなるかどうかわからないけど自然に出てくるインディー精神。まるで彼女の中に浮かんだ感情や言葉をそのまま音に反映したような鏡のような曲達。
押し付けがましさが微塵も感じられず、好きなように作ったから好きなように聞いて欲しいくださいという感覚。
感覚的にいうと、ビリー・アイリッシュのアコースティック版アーティストと言った感じかな。
一聴すると70年代から脈々と連なるアコースティック系のシンガー・ソング・ライターの後継人のような位置付けのアーティストなのかもしれないですが、これを伝えたいというような明確なメッセージ性というのが感じられず、押し付けがましい感じが全くなく、アプローチがかなり違うような気がします。
柔らかなヴォーカルとフィービーの日々の暮らしや感じたことの一部一部を切り取っていったような私的な歌詞とひたすらニュートラルなスタイルが住んでいる場所が異なっても若い人達中心にアピールしていっているのだと思います。
メロディも淡々としていてとりわけグッとくるようなものがあるわけではない、歌詞も抽象的で歌詞の中のキーワードや言葉の連なりからテーマやイメージを聞き手に想像させる、委ねるといった曲達で、気にしないとBGMのように流れていく。聞き手に真剣に聞いてもらうことを強要しないと言った感じです。そのためなんとなく繰り返して聴きたくなる思いにさせられます。
唯一ポップな3曲目の [Kyoto] はフィービーの新基軸のようなこのアルバムでのハイライトとなる曲です。
京都滞在していたことをきっかけに書いた曲のようですが、全てが経験に基づくものではなく、想像が多いようです。
海外のアーティストはたまに日本をテーマに歌を作ることがありますが、日本のファンへのサービス的な意味合いがあったりしてあまりピンと来ないことが多いのですが、この曲は日本で育って住んでいる人間からするとなんか外人さんが日本をすきになるということがわかるように晴れやかな気持ちが軽くなる曲です。
歌詞の中にバンド仲間や、弟、父親に関するエピソードも出てきて、日本を歌いながら想いは、幼い頃のノスタルジーや母国アメリカ等にも飛んでいくような広がりを見せる不思議な歌です。
ラスト11曲目の [I Know the End]もこのアルバムの重要な曲です。アコースティックから始まり、今まで静かに奏でられていた楽器達が狂ったように響き出すような大円団のラストを奏でて「終わりはここになるね」というメッセージと共にアルバムは終焉を迎えます。
最後に、拙いレビュー(感想)を書いてきましたが、フィービーのこのアルバムリリースに伴うインタビューが掲載されている [NeoL] のサイトです。いくつかの曲のコメントやフィービーのフォトも綺麗でこのアルバムと一緒に読んでもらうと良いと思います。
6月にニューアルバム『Punisher』をリリースしたシンガーソングライターのフィービー・ブリジャーズに電話インタビューを敢行。2017年にアルバムデビューした彼女が、2つのサイドプロジェクトを経て、満を持して完成したセカンドアルバムについて、自宅のあるロサンゼルスからたっぷりと語ってくれた。
フィービー・ブリジャーズ 『Punisher』 インタビュー/Interview with Phoebe Bridgers about “Punisher”
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