Notes On A Conditional Form (Deluxe Apple Music Edition) – The 1975 (ザ・ナインティーンセヴンティファイヴ)

Notes_On_A_Conditional_Form-The 1975
  • 2020年5月22日
  • 個人評価:★★★★☆

冒険・挑戦する天才真面目バンドの飛躍的アルバムだと思います。

ここ数年の女性ミュージシャン達の攻勢もあり、サイト開始から投稿の大半を女性ミュージシャンの作品が占めてましたが、初めてのイギリスの若手バンドのレビューとなります。ブリティッシュ大好きな私としては意外でした。

そんなブリティッシュ・バンドの今後を担うホープの代表であるThe 1975(ザ・ナインティーンセヴンティファイヴ)です。

日本では、[ザ・ナインティーンセヴンティファイヴ]と呼んでいる人はいるのでしょうか。
略称も難しいので [(ザ・)イチキューナナゴー] と呼んでいる人達が多くいるのではないでしょうか。自分もそうなのですが、特に友人と音楽の話をする時はこのバンドの名前はついつい[(ザ・)イチキューナナゴー]です。
しかもセカンド・アルバム以降、アルバム・タイトルの長さとわかりずらさもあり、よくぞここまで日本でもメジャーになったなぁという感があります。
日本版CDのアルバム・タイトルにはさすがにそのままのタイトルで使いづらいので、直訳に近い日本語タイトルになっています。

The 1975はイギリス出身のロック・バンドで、2002年にチェシャー州のウィルムスロー高校で出会いバンドが結成され、現在はマンチェスターを拠点に活動しています。
ボーカル・ギターのマシュー・ヒーリー中心の4人組で、マシュー以外はギター・ベース・ドラムと典型的なロック・バンドの構成です。
日本でも洋楽ロック・バンドとしては数少ないアイドル的な人気もでるような、イケメンでスタイリッシュなメンバーが揃っていて、良く高校時代の仲間でこのメンバーが集まったなと奇跡的な感があります。

バンドは2000年代には既に原型ができ、2012年に初EP [Facedown] や、2013年にEP [Music for Cars] がリリースされます。
そして、2017年にバンド名を冠したデビュー・アルバム [The 1975] です。
これは、ソウルフレーバーが効いたオシャレでカッコ良いポップな名作でした。
サブスクでのデラックス・エディションでは、EP [Facedown],[Music for Cars]に入っていた曲も含まれてますので初期のデビュー時からのバンドが魅力が分かるのでお勧めです。

そしてデビュー作から、2016年のセカンド、2018年のサードと音楽的成長と共にメディアへの露出と作品の評価を重ねていき、今回紹介する4作目まで全てのアルバムが全英ナンバー・ワンになっており、アメリカでもセカンド以降がトップ・テンに入るなど名実ともにワールド・ワイドに活躍する今が旬といえるバンドとなりました。

で、2020年5月にリリースされた4枚目のアルバム [Notes on a Conditional Form (仮定形に関する注釈)] です。

アルバムは1曲目の [The 1975] で、17歳のスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリのスピーチから始まります。
このスピーチはグレタの公演の録音ではなく、THE 1975とのコラボとしてグレタが楽曲に参加した完全な新作のようです。
ダンス・ミュージックの世界ではシングルだけでなくアルバムの中にコラボ曲が半数を占めるのが当たり前にご時世で、ロック・アーティストもコールド・プレイやエド・シーラン等も当然の如くやっています。
ただグレタがミュージシャンの作品に参加するのも初めてですが、The 1975 が他のアーティストとコラボするのも初めてとのことです。
それだけに The 1975 がバンド・サウンドに拘っていることがわかります。

うどんとそばさんのサイト [うどん歌詞翻訳] にはこのアルバムの全曲歌詞和訳が掲載されております。1曲目のグレタのスピーチまで和訳されていて、英詞と和訳も交互に分かり易く記載されているので聴きながら歌詞を読むには最適なサイトです。

うどん歌詞翻訳
Notes on a Conditional Form の和訳記事
Notes on a Conditional Form (2020)

曲名をタップかクリックでその曲の和訳記事に飛べます。

浮遊感のあるアコースティック・サウンドにグレタの17歳の澄んだ声とアンバランスさえ感じる力強いメッセージが響く1曲目に続いて、2曲目の [People] は「えっ」と驚くようなブリット・ポップにハードコア・パンク要素をふりかけた彼ららしくなくも勢いあるナンバーが続きます。このPVもかなりカッコ良いです。
この曲は環境問題を訴える1曲目と連動するかのように若い力がパンキッシュなアティチュードで地球危機を訴えるという流れとなりアルバムの期待度が増します。

3曲目の [The End (Music for Cars)] は2分半という短い曲ながらもアンビエントながらもオーケストラ的な壮大さをを感じるインストルメンタルに繋いていくところが憎いですね。

4曲目の [Frail state of mind] でここ最近の The 1975 らしい心地よいリズムのゆるめのポップソングになっていますが、脆い心の状態で自分に中にこもっている感じが歌われています。この曲の録音中はコロナ禍とは関係なかったはずですが、このアルバムがリリースされた時のコロナ禍のロックダウン状態にある人の心情を反映しているようで興味深いです。

ここまでの掴みの流れは結構圧巻です。

9曲目の[Jesus Christ 2005 God Bless America]は前回紹介したフィービー・ブレジャーズとのデュエット・ソングとなってます。アメリカ出身の新鋭アコースティック・ミュージシャンとの共作は、陰影のあるメロディと納得のフォーク・フレーバー溢れるチューンになっています。キリストを愛しているといいながら、宗教であったり性であったり、信仰することの意味や死んだ後の自身の存在を歌っているように思えます。

11曲目の [Me & You Together Song] はアルバムの先行シングルとなったポップなチューンです。昔から知っている女性に素直に照れながらも感情を伝えるような捻りはありつつもストレートなラブソングになっています。

13曲目の[Nothing Revealed / Everything Denied] はジャジーピアノとファズの効いたギターが魅力の心地よいソウル・ヒップ・ホップといった雰囲気で、アルバムの中で気にっている曲です。

16曲目の[If You’re Too Shy (Let Me Know)] もポップで良い曲です。ちょっと80年代のTears For Fears [Everybody Wants to Rule The World]のようなキラキラしたイントロから始まったかと思うと、雰囲気が少し変わりながらも、ところどころのフレーズが80年代のヒット曲のコラージュのように繋がっていきながらも The 1975 らしい曲になっていて、サックスのパートなんか80年代ポップ・ロック・ソングを思い出してしまいグッときます。アルバム中のポップサイドを代表する楽しい曲です。
ネットにお気に入りの女性を見つけて妄想するような、そんな思春期の少年の気持ちのような歌詞も面白いです。

17曲目の[Having No Head] は最近の The 1975 が得意とするスペーシーでアンビエントかつヒーリング効果のあるインストルメンタルです。この曲はドラマーでプロデューサーでもあるジョージ・ダニエル(George Daniel)がほとんど作った曲のようです。
ヴォーカルのマシュー・ヒーリー(Matthew Healy)だけでなく個々のメンバーも才能豊かなだということを痛感する曲です。

そして、21曲目の[Don’t Worry]等、このアルバムにはアコースティック・チューンも随所に散らばっていて、どの曲もメロディアスで、ほんのりノスタルジックでありながらも未来的な印象が感じられる曲が多いのが魅力です。

そしてラストの22曲目の[Guys]はバンド・メンバーとの絆を歌ったこのアルバムで一番ストレートに感情が伝わるホロっとするような感動曲で幕を閉じます。

と、22曲の長丁場で少し冗長な感じはなきにしもあらずなのですが、曲順も良くついついそれなりのコメントを書いてしまいました。

The 1975 を聴く面白さは、それぞれのアルバムの中に2~4分程度の曲が多数入ったものが多いのですが、内省的で繊細とも言えるそれぞれの歌詞は抽象的なものがあり、聴く人に解釈を委ねるところがあるのですが、何故か自分の内面にある様々な感情と向き合えるようなところがあり、セラピーに似た効果があったりします。
それぞれの曲がヴァラエティに富みながらも未来的ではあるのですが、実は素直な感情が込められていて、ある意味非常に人間臭いところもあったりして、案外真面目な人達なのかなぁとか思ってしまいます。
売れてスーパースターになってもコアな自分のハートを忘れず、大人になりきらないようなところと、音楽性はミクスチャーだけど姿勢は決してブレないところが良いです。

ダンス、ヒップホップ、ポップ、ロックをクロスオーバーではなく全てを消化し、The 1975 独自の世界観を作っていく。冒険的で実験的でありながらも、ポップさと純粋さを兼ね備えていく活動に今後も期待です。

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