デヴィッド・ボウイの神秘性を映像表現
今回は2023年に公開された映画 [ムーンエイジ・デイドリーム (MOONAGE DAYDREAM)]を紹介します。2016年に惜しくもまだ70歳前で亡くなってしまったデヴィッド・ボウイのドキュメンタリー映画です。
- 2022年製作/135分/ドイツ・アメリカ合作
- 公開日:2023年3月24日
- 配給:パルコ
私にとってのデヴィッド・ボウイ
見に行きたいとは思っていた映画だが、タイミング良く、早めに仕事終わりで時間が空いた日があったので、事前予備知識一切無しで見に行きました。
デヴイッド•ボウイというと20世紀のミュージシャンや、音楽業界のみならずアート界にも絶大な影響を与えたアーティストであり、特にロックの世界ではこの先これ以上の人が出ることはないだろうというカリスマであり、20世紀でも、亡くなってしまった21世紀以降のこの2023年になった今でも伝説として語り継がれる存在です。
私はというとロックファン初心者のように彼の曲は両手で数えられる程度の数少ない曲を知ってる程度で、興味はあっても熱烈なファンという訳では無いです。
ボウイの魅力は、ファンやメディアが伝えていった伝説で知られることが多く、アルバムとしては名盤と言われているものは多くありますが、本国イギリスではともかく、アメリカではヒット曲という意味では数える程度しかなかったりします。
私のような70年代の彼にはリアルタイムで触れることが出来なかった80年代中頃から洋楽を聴き出した人には誰もが知っているスーパースターでありながら、気にはなるけどなかなか深く関わる機会がなかった人です。
私がボウイを知った時はアルバム[Let’s Dance (レッツ・ダンス)] が大ヒット中で日本公演の時期でした。そんな時の人であり、世間一般の人気はピークであり、当時の音楽誌のミュージック・ライフ等は既に30歳半ばになる彼をアイドル的に取り扱っていました。
その後のアルバム[Tonight(トゥナイト)]や[Never Let Me Down(ネバー・レット・ミー・ダウン)] はよりポップになり、典型的なロック・スター路線を歩んでいて、当時トップ40に夢中になっていた私もこの2つのアルバムやその中の曲はあまりピンとくるものはなく、かつて伝説のカリスマ・ロック・アーティストと言われても一番しっくり来ない世代だったと思います。
80年代の中期から後期の活動では、[Let’s Dance (レッツ・ダンス)] と上回る、もしくは同等程度の大きなヒットもなく古くからのファンからも評価が薄れてしまい、カリスマ性も神通力も枯渇してきたという印象でした。
ただ80年代の迷走期を過ぎた後は往来のアーティスティックなロック路線に戻ってきたという印象がありますが、私自身はあまり聴けてません。
ムービー・インプレッション
事前に…. ネタバレありますのでご注意ください。
映画を見る前にフライヤーの写真を見た時にデヴィッド・ボウイのそっくりさんのようなアクターかなと思い、ボヘミアン・ラプソディ路線(ストーリー物)と思ってました。蓋を開けたらドキュメンタリー映画でした。
さすがカメレオン・アーティスト。今でさえも軽く騙されてしまいます。
この作品は、クイーンのボヘミアンラプソディのようにアクターが伝記として彼の半生を振り返る類ではなく、完全なドキュメンタリー映画となっております。
映画は彼に関わった人のコメントや、メディアが取り上げられたデヴィッド・ボウイのエピソードを挟むことは一切なく、ボウイのライヴやインタビュー、その当時の象徴的な姿、はたまた私生活やバックステージの様子等を中心とした映像と彼のインタビューのみでほとんど構成されています。
映画の初めは当時は衝撃的と言って良いほどの、ロックスターという言葉があまりに陳腐に思われる程の神秘性とオーラを纏った初期のグラム期と言われる映像が展開されます。まるでこの世の人とは思えないくらいの人間離れした姿です。
今見てもそう感じるので当時の衝撃は相当だったと思います。この世界観やオーラ、衝撃を伝えられるアーティストは、洋邦問わずそれ以降のヴィジュアル系アーティストには到底超えることができない圧倒的なオリジナリティと存在感です。
初めはなぜIMAX?という違和感がありましたが、過去のアーカイブと今のCGを駆使して織り交ぜたトリップ感がある映像が今、デヴイッド•ボウイを追体験しているという感覚はあるかと思います。
また、慣れてない人がその場にいると耳障りと感じるほどの大音響です。
ちょっとコラージュっぽいコロコロ変わる映像が詰め込み感があり、もう少しじっくりとシーンを選んで見せてくれたらという思いはありました。
中盤のアメリカ・ドイツベルリン時代やレッツ•ダンス時の時代の寵児となる時期の映像が映し出されてくると彼のアーティスト半生を描いている映画ということがやっとわかってきます。
そして彼が69年の人生に幕を下ろした事などには一切触れず、ラストは彼の死生観や自身とアートについて、今まで映画で語られてこなかった恋愛・結婚について語られ人間デヴイッド•ボウイを綴って映画は幕を下ろします。
恐らく往来からの彼のファンには数多くあるデヴイッド•ボウイの映画との比較や思い入れもあり賛否がある映画なのかもしれないですが、どちらかというとデヴイッド・ボウイというアーティストに興味があり知りたい、と思っている私のような今まで深く触れてこなかった人や、アーティストとしての活動期を全く知らない若い人達には逆に事前に余計な予備知識をインプットせずにデヴイッド・ボウイのアーティストとしての生きた姿をありのままに受け止められる映画ではあると思います。
デヴイッド・ボウイとはどんなアーティストだったのかを今ある技術やアーカイヴを介して自分なりに感じてくれと投げられている映画と思いました。
反面、デヴイッド•ボウイというアーティストがどんな存在だったのかや、何をアート界、ロック界に影響を及ぼしたのかを知りたい人には映像以外の情報量が少なく、もっとわかりやすくストーリーや音楽的歴史の時系列を組み立ててほしいと思うだろうし、コアなファには哲学的な思想が邪魔になったりして、もっとレアな映像とライブシーンを中心にして欲しかったのではないかと思われます。
逆に興味がない人、音楽やアートに興味がない人が見るとただ単に退屈極まりない映画だと思います。
そういう意味では一般向けに作られた映画ではなくマニアックな映画です。
僕はというと当日そこそこしっかり睡眠が取れていたこともあり、寝落ちもせず刺激の強いフラッシュと大音響の中、つづられていく映像とデヴイッド•ボウイの言葉に引き込まれたというほどではないですが楽しめました。
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