- リリース日:2021年2月17日
- 個人評価:★★★★★
オリジナリティとヴァラエティ豊かな全15曲
アーティスト・アルバム紹介
Coccoの11枚目のオリジナル・アルバムです。
Coccoさんは沖縄県那覇市出身の女性シンガーソングライターです。
大ヒット曲もあるので一般的にもアーティストとしての知名度はある方ですね。
ただメディアからは2001年から遠ざり、歌う姿がテレビで見れなくなったので、世間一般のメディアで大々的に騒がれるようなアーティストではなくなりました。
ただ、2001年から2006年まで活動休止期間はありましたが、その前後はファンには嬉しい位、コンスタントに制作活動をしてくれて2,3年程度に1枚のペースでオリジナル・アルバムをリリースしてくれて、ファンにとってはCoccoというアーティストと人生を歩んでいることを実感させてくれます。
ここ数年は、2017年末に大盤振る舞いのリクエストベスト、圧巻のボリュームの20周年日本武道館2days ライブ・アルバムがリリースされ、2016年リリースの前々作 [アダンバレエ] から前作の2019年リリース[スターシャンク]までは3年経ってますが、わずか1年4ヶ月でこの[クチナシ]が2021年2月にリリースとなりました。
そして今作は、新型コロナウィルスによる外出自粛期間中にTwitterやYouTubeに公開された“おうちdemoトラック”シリーズの曲を含む全15曲が収録されています。
90年代後半のCoccoのデビュー時はとにかく衝撃で、情念と言っても良い激しさや怒り、そして内包される繊細さをグランジ的なノイズ・ギターにピアノやストリングス・サウンドを絡めて、激しさと美しさが錯綜しており、オルタナ・グランジを体現する女性シンガーという言葉には全く収まりきらないオリジナリティと才能がほとばしっていました。
特に2ndアルバムからは[強く儚い者たち], [Raining]が大ヒット曲として一般層を巻き込むほど話題になりました。
90年代後半のデビュー時のファンから、今も新しいファンも開拓していき、音楽の力とステージでの高いポテンシャルと、ステージ上のギャップのある天然というか素の人柄によって信頼感に基づく強いファンベースを築いていってます。
個人的には前期の激しく制御不能な感情の嵐のような激烈な1stアルバムの[ブーゲンビリア]も好きなのですが、一時活動休止以降の2006年からの音楽性の幅がさらに広がり、優しさや抱擁感がより感じられる作品も大好きです。
過去作の数枚は後追いしましたが、1stアルバムから最新作までもれなく聴いている数少ないアーティストの一人です。
先日投稿した2013年のデビュー25周年ベストツアーのレビュー(LINK)でも触れましたが、男女・年齢問わない幅広い客層が根強い人気と才能を物語っているとライヴに行って改めて感じました。
そして今は女性シンガー・ソング・ライター全盛で毎年のように話題のアーティストが出てきますが、最近だと Aimer(エメ) や milet(ミレイ) のような魅力的なアーティストもいますが、20年後にCoccoのようなオリジナリティとクウォリティをキープしていけるアーティストがどれだけ残るのかと思ってしまいます。
余談ですが、Aimer はCocco の大ファンらしいです。
個人的には個性と天性の才能という共通点を感じる二人なので、こういう話を聞くと嬉しくなってきます。
ただ、このようにCoccoが若手アーティストが影響を受けたと言われる存在になっていることはその分、Coccoがベテランの域に入ってるはずなのですが、今だに作品に新鮮さが感じられマンネリ感が一切ないためちょっとピンと来ないのも事実です。
アルバム・インプレッション
Coccoのニュー・アルバムはいつも音楽専門雑誌やサブスクでリリースを知ることになるのですが、この[クチナシ]もCoccoファンなら良い意味で安心して作品に耳をそして身を委ねられる一枚となってます。
「クチナシ」というタイトルですが、日本では言葉の通り「口がない」、「死人に口なし」と花とは関係ない言い伝えで不穏なイメージがありしますが、花言葉は「とても幸せ」「喜びを運ぶ」であり、西洋では縁起の良い花のようです。
白い色の花で花径が50から70cm程度なのでコロナ禍のマスクをイメージされたり、多面的な解釈とか世情も反映させているタイトルな気もします。
歳を重ねて作品を重ねるごとに衰えとかマンネリ感という言葉とは無縁であり、今作でもフレッシュ感さえ感じ、アーティストCoccoの表現力は高まり、過去の代表作を超えられないというよくあるベテランアーティストの図式に当てはまらないところが特徴です。
生まれつきの天才的なソングライター・メロディメイカー気質と、声の美しさと若さも相変わらずで表現力の豊かさが作品ごとに増していき、ヴォーカリストとしての魅力を昇華しているのが素晴らしいです。
今作でも、Coccoならではの、沖縄民謡でも歌謡曲でもEDMでもオルタナティブもハードロックも自然消化は当たり前で、ヴァラエティ豊かな楽曲に不自然さや違和感は一切感じられず、全てがCoccoにしか歌えない、作れない曲になっています。
様々な音楽をCoccoのオリジナリティで咀嚼・消化しているのは変わりなくですが、どちらかというと歌謡曲っぽい懐かしいテイストを感じるメロディが心地よい曲や、ディストーションの効いたギターが前に出たハードロックとも言える曲も目立つアルバムとなってます。
このハードさあたりはデビュー時からの盟友である根岸孝旨さんが制作に関わっている影響のように思えます。
そんなかハードテイストの曲としては、4曲目の[ひとひら]はミドルテンポのヘヴィロックとも言えるハードロック調な曲であり、間に短いながらもCoccoらしい力強いラップを挟んだり、逆境に負けず進んでいく力強さを感じます。
一番好きな曲は、10曲目の[塩満ちぬ]ですね。
個人的にはこのアルバムを代表する楽曲です。
イントロのシンセとピアノの美しいメロディからヴァースの歌い出しから引き込まれ、琴線に触れるメロディと歌声に涙腺がゆるみます。希望的なサビメロとCoccoのセリフが絡む始間奏からラストまで完璧な構成の名曲です。
そしてラストの[真白の帆]のトラディショナル・ソングとも歌謡曲ともロッカ・バラードのどれでも当てはまるような心の琴線に触れる曲になっていて、この曲でアルバム通して聴き終わった後の余韻が心地よく感じられます。
Cocco自身もメディアで顔出しで歌わないと宣言しており、それが残念とまでは思いませんが、NHKの紅白歌合戦出演というのは夢のまた夢でしょうが、まだまだ全盛期である今のうちに….. と思ってしまうのが一人のファンの心境です。
テレビの音楽番組や紅白でCoccoが観たいという訳ではないのですが、やはりCoccoのようなアーティストこそたくさんの人達にもっと認知されてほしい、曲を聴いてほしいと感じる日本を代表する女性シンガー・ソング・ライター、アーティストという思いからです。
今作クチナシでもタイアップは一切無しというのが潔いのですが、ちょっと寂しいところでもあります。
ただCoccoさん自身が納得して制作活動をしていくのが一番なので今後も行ける時はライヴに行って応援しにいこうと思ってます。
参考サイト
このアルバム自体を分析するようなサイトはほとんど見つかりませんでしたが、アルバムのレビューが note にあったので紹介です。
歌詞のフレーズに焦点を当ててレビューされているところがなるほど〜。と読み込んでしまいました。
ちなみにCoccoは沖縄の死の匂いを携え、曲を生み出してきた。前作『スターシャンク』でも、宇宙の力に背中を押されていたように感じる。
感想 Cocco最新アルバム『クチナシ』~安らぐ愛を見つける壮大な旅~
しかし今作では、あくまで我々が生きている現世にどこまでも肉薄しているように感じる。ただ、現世に迫る時の射程がどこまでも長く、視野がどこまでも広いということなのだ。
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